ドルジェ(金剛杵)とベルとは?チベット密教の法具と真鍮に宿る祈りの意味 | Brass Note

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ドルジェ(金剛杵)とベルとは?チベット密教の法具と真鍮に宿る祈りの意味

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手に持つだけで心が静まるような不思議な力を感じさせる「ドルジェ(金剛杵)」と「ベル(ガンター)」。この2つはチベて密教における最も重要な法具であり、常に「対(つい)」として用いられています。それぞれが持つ象徴的な意味や形状、素材の特徴、そして私自身が真鍮に日々触れるなかで実感した「素材と精神性の関係性」について、順を追って紹介します。

ドルジェとベルとは何か|密教の中心にある「対」の法具

古い木製の机の上にある真鍮製のドルジェとベル

ドルジェ(ヴァジュラ/金剛杵)

「ドルジェ」はサンスクリット語の「ヴァジュラ(vajra)」に由来し、日本では「金剛杵(こんごうしょ)」と訳されます。「金剛=壊れないもの」「杵=打ち砕く道具」という意味を持ち、煩悩(ぼんのう)や迷いを断ち切る象徴です。

ベル(ガンター)

「ベル」は正式には「ガンター」と呼ばれ、音によって空間を清め、心を整えるための法具です。高く澄んだ音色は、智慧(ちえ)=本質を見抜く力を象徴します。

この2つは、密教において常に一対で扱われ、
・ドルジェ=方便(ほうべん)=実践・行動
・ベル=智慧(ちえ)=認識・気づき
というように、宇宙の二元性を体現する存在とされています。

形に込められた意味|左右対称と共鳴の象徴

金剛杵の形と象徴性

中央の柄(つか)を境に左右対称に広がる構造は、人間の心の中心軸=中道(ちゅうどう)を象徴します。両端の爪は仏の智慧を示し、その形には煩悩を断ち切る力と、静かな集中力が込められています。

  • 一鈷杵(いっこしょ):一本の爪で「不二(ふに)=すべてはひとつ」を表現
  • 三鈷杵(さんこしょ):三本の爪で過去・現在・未来の「三世(さんぜ)」を象徴
  • 五鈷杵(ごこしょ):五本の爪で「五智如来(ごちにょらい)」を示す

ベルの形と音の象徴性

ベルは下部が開いた鐘状の形をしており、内部には舌(ぜつ)と呼ばれる金属片が取り付けられています。振ることで鳴る音は、心の内側に響くような深い振動を生みます。その響きは、仏の教えを“聴く心”を呼び起こし、場を清め、智慧の働きを象徴します。

素材が語る精神性|真鍮と青銅に宿る祈りのかたち

ドルジェの素材|主に真鍮や銅合金

ドルジェは多くの場合、真鍮(しんちゅう)=銅と亜鉛の合金で作られています。真鍮は程よい重みがあり、手にしたときの質感が非常に落ち着きを与えてくれます。また、使い込むほどに色味が深まり、経年変化(けいねんへんか)を楽しめる素材でもあります。

この「変化する美しさ」は、仏教における「無常(むじょう)=すべては変わる」という思想と深く結びついています。

ベルの素材|青銅や真鍮が主流

ベルは通常、青銅(せいどう)=銅と錫(すず)の合金で作られています。澄んだ音を出すには、密度と振動性の高い金属が必要なため、青銅や真鍮が最適とされています。

中には「パンチャローハ(五金)」と呼ばれる特別な合金(銅・金・銀・鉄・鉛)を用いた高級なベルもあります。音色だけでなく、精神的価値を重んじた素材選びがされているのです。

音と触感で整える心|密教法具としての使い方

瞑想の場面で

密教の瞑想では、右手にドルジェ、左手にベルを持ち、静かに意識を集中させます。音と静けさ、行動と気づきが手の中で統合され、心の内側に深く入っていく感覚があります。

儀式の中で

チベット密教の儀式では、僧侶が読経中にベルを鳴らし、祈りの場の空間を整えます。ドルジェはその力の象徴として掲げられ、対になることで世界観を完成させるのです。

ドルジェとベルに感じる精神性とchicoriの真鍮表札

私たちchicoriが手がける真鍮表札にも、ドルジェやベルと同じく、素材の中に込められた「精神性」があります。

真鍮は塗装をせず、無垢のまま仕上げることで、時間と共に色が深まり、手にする人の暮らしに呼応するように表情を変えていきます。それは、心の移ろいを映し出す鏡のようでもあり、まさに“祈りをかたちにする素材”といえると実感しています。

仏具としてのドルジェとベル、そして生活の一部としての真鍮表札。用途は異なれど、その奥にある「変化を受け入れ、静かに見つめる心」は共通していると感じています。

まとめ|対(つい)としての美と力を宿す法具と素材の共鳴

チベット密教における「ドルジェ(金剛杵)」と「ベル(ガンター)」は、智慧と行動、音と静けさ、男性性と女性性というように、相反する要素を調和させるための法具です。

その形と素材、そして使い方には、深い精神的意味が込められています。そして、私たちが日々触れている真鍮という素材にもまた、変化を受け入れながら輝きを深めるという、密教の教えに通じる力が宿っていると感じます。

法具の重みと音の響き、そして玄関先の真鍮表札——すべては心に静けさと強さをもたらす道具であり、変わりゆく日々の中で「変わらない祈り」を支えてくれる存在です。


 

この記事の著者

葛 西

1977年生まれ。幼少期を家業の看板屋の工場で過ごし、真鍮の経年変化の魅力の虜に。美術大学卒業後に実家の看板屋へ。10年間勤務後、洋服のセレクトショップ「chicori」を開業し、その中でオリジナル商品の真鍮表札の製造販売を始める。2023年より真鍮表札専門店として新たに歩み始める。妻と娘、息子の4人家族。最近ギターを習い始める。真鍮のように時を重ねる楽しさを届けたい。

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